コーシーの定理の証明

正規形の一階微分方程式に対する初期値問題
y^{'}(x)=f(x,y),\,\,\,\,y(\alpha)=\beta     ・・・(A.1)
についての解の存在定理をコーシーの定理という。

[定理]
x-y平面上の長方形領域
D=\{(x,y);|x-\alpha|\leq a,|y-\beta|\leq b\}
において、関数f(x,y)は連続でリプシッツ条件
|f(x,y)-f(x,z)|\leq L|z-y|,L>0
を満たすと仮定する。Dにおける|f(x,y)|の最大値をMとすると、初期値問題(A,1)の解が区間
I\,\,:=\{x;\,|x-\alpha|\leq min\,\{a,\frac{b}{M}\} \} ・・・(A.2)
で一意に存在する。


逐次近似法での証明になります。

まず、\begin{eqnarray}y_{0}(x)\eq\beta\end{eqnarray}と置き、
関数y_{1}(x)
\begin{eqnarray}y_{1}^{'}(x)=f(x,y_{0})\end{eqnarray},\,\,\,\,y_{1}(\alpha)=\beta
によって定める。これを積分すればy_{1}(x)
y_{1}(x)=\beta+\int_{\alpha}^{x}f(t,y_{0})dt
と求められる。
同様に、y_{2}(x)
y_{2}^{'}(x)=f(x,y_{1}),\,\,\,\,y_{2}(\alpha)=\beta
すなわち、
y_{2}(x)=\beta+\int_{\alpha}^{x}f(t,y_{1})dt
によって定める。これを繰り返し、y_{n}(x)からy_{n+1}(x)
y_{n+1}^{'}(x)=f(x,y_{n}),\,\,\,\,y_{n+1}(\alpha)=\beta
すなわち、
y_{n+1}(x)=\beta+\int_{\alpha}^{x}f(t,y_{n})dt (n=0,1,2,...) ・・・(A.3)
と定め、関数y_{n}(x)を第n次近似解と呼ぶことにする。

以下ではこの関数列{y_n(x)}n \to \inftyとしたときに初期値問題(A.1)の解に収束することを示します。


[補題1]
各近似解y_{n}(x)は(A.2)で与えられた区間Iで連続で
|y_{n}(x)-\beta| \leq b     ・・・(A.4)
を満たす。

[補題1の証明]
数学的帰納法を用います。
まず、y_{0}(x)\eq\betaは明らかにこの性質を満たす。
そこでいま、y_{n}(x)区間I上で連続で(A.4)を満たすと仮定する。
すると、fに関する仮定よりf(x,y_{n}(x))はI上で連続であり、また
|f(x,y_{n}(x)\,)|\leq M
を満たす。従って、(A.3)より、y_{n+1}(x)はI上で連続であり、また
|y_{n+1}(x)-\beta|=|\int_{\alpha}^{x}f(t,y_{n})dt|\leq M|x-\alpha|\leq b
を満たす。よって{y_{n+1}(x)}も(A.4)を満たすから、数学的帰納法より証明を得る。


[補題2]
近似解y_n(x)n \to \inftyとしたとき、区間I上で一様にある関数y= \phi (x)に収束し、また
|\phi(x)-\beta|\leq b    ・・・(A.5)
が成り立つ。

[補題2の証明]
関数z_n(x)z_0(x)\eq\betaおよび
z_n(x)=y_n(x)-y_{n-1}(x) (n=1,2,3,....)
で定める。すると
y_n(x)=z_0(x)+z_1(x)+z_2(x)+\dots+z_n(x)
と表されるから、n \to \inftyとしたときに右辺の級数区間I上で一様にある関数に収束することを示せばよい。
n=1,2,3,...に対して(A.3)を用いると
|z_{n+1}(x)|=|y_{n+1}(x)-y_n(x)|\\=|\int_{\alpha}^{x}\{ f(t,y_n(t))-f(t,y_{n-1}(t)\,)\}dt|\\ \leq \int_{\alpha}^{x}| f(t,y_n(t))-f(t,y_{n-1}(t)\,)|dt
が成り立つ。ここでリプシッツ条件より
[|f(t,y_n(t)\,)-f(t,y_{n-1}(t)\,)| \leq L|y_n(t)-y_{n-1}(t)|=L|z_n(t)|]
が成り立つことを用いると、
z_{n+1}(x) \leq L|\int_{\alpha}^{x}|z_n(t)|dt|   ・・・(A.6)
が得られる。(A.6)でn=1とし、
|z_1(x)|=|y_1(x)-y_0(x)|=|\int_{\alpha}^x f(t,y_0)dt|\leq\,M|x-\alpha|
を用いると、
|z_2(x)|\leq L\|\int_{\alpha}^{x}M|t-\alpha |dt\|=\frac{LM}{2}|x-\alpha|^2
を得る。同様に(A.6)でn=2とし、この不等式を代入すると
|z_3(x)|\leq L\| \int_{\alpha}^{x}\frac{LM}{2}|t-\alpha|^2dt\|=\frac{L^2M}{3!}|x-\alpha|^3
を得る。この手続きを繰り返せば、順に
|z_n(x)|\leq \frac{L^{n-1}M}{n!}|x-\alpha|^n   (n=1,2,3,....)
が得られる。級数
\sum^{\infty}_{n=1}\frac{L^{n-1}M}{n!}|x-\alpha|^n
はL,Mの値に関係なく、区間I上で一様に収束し、その和は
\frac{M}{L}(e^{L|x-\alpha|}-1)
である。従ってワイエルシュトラスの優級数定理により、関数列{y_i(x)}はある関数y=\phi(x)に一様収束し、不等式
|\phi(x)-\beta|\leq\frac{M}{L}(e^{L|x-\alpha|}-1)
を満たすことが示される。各近似解は(A.4)を満たしているから、その極限関数は(A.5)を満たす。


[補題3]
近似解の列\{y_n(x)\}の極限関数y=\phi(x)は初期値問題(A.1)を満たす

[補題3の証明]
関数列{y_n(x)}は一様収束し、また各項y_n(x)は連続であるからその極限関数\phi(x)も連続である。
また、fの連続性からf(x,y_n(x))区間I上で一様にf(x,\phi(x))に収束する。従って、
y_{n+1}(x)=\beta+\int_{\alpha}^{x}f(t,y_n(x))dt
においてn\to\inftyとすると両辺とも一様収束し、
\phi(x)=\beta+\int_{\alpha}^{x}f(t,\phi(t))dt
が成り立つ。ここでx=\alphaと置くと、\phi(\alpha)=\betaを得る。一方、xで微分すると、
\phi^{'}(x)=f(x,\phi(x))
が得られる。よってy=\phi(x)は初期値問題(A.1)の一つの解である。


[補題4]
y=\phi(x)は初期値問題(A.1)をD上で満たすただ一つの解である。

[補題4の証明]
二つの解y=\phi(x)y=\psi(x)があったと仮定する
\phi(x)=\beta+\int_{\alpha}^{x}f(t,\phi(t)\,)dt,\,\,\,\,\psi(x)=\beta+\int_{\alpha}^{x}f(t,\psi(t)\,)dt
が成り立つから、その差を取ると
|\phi(x)-\psi(x)|=\|\int_{\alpha}^{x}{f(t,\phi(t)\,)-f(t,\psi(t)\,)}dt\|\\\,\,\,\leq\|\int_{\alpha}^{x}|f(t,\phi(t)\,)-f(t,\psi(t)\,)|dt\|
を得る。この右辺にリプシッツ条件を適用すると、
|\phi(x)-\psi(x)|\leq L\|\int_{\alpha}^{x}|\phi(t)-\psi(t)|dt\|      ・・・(A.7)
を得る。ここで、二つの解の解曲線は領域Dに含まれているから
|\phi(x)-\psi(x)|\leq 2b
が成り立つ。これを(A.7)の右辺に代入すると
|\phi(x)-\psi(x)|\leq 2Lb|x-\alpha|
を得る。再びこれを(A.7)の右辺に代入すると
|\phi(x)-\psi(x)|\leq L^2b|x-\alpha|^2
となり、これをk回繰り返すと
|\phi(x)-\psi(x)|\leq\frac{2L^kb}{k!}|x-\alpha|^k
が得られる。k\to\inftyとすると右辺は区間I上で一様に0に収束する。
よって\phi(x)\eq\psi(x)となり、初期値問題(A.1)の解の一意性が示された。


以上より、コーシーの定理が証明されます。